mohumohux

病気や子育てについて書くつもりが、趣味の話が増えてしまった雑多ブログ。

子供にヘディング練習をさせる必要はあるのか。もうちょっと柔軟に考えてみよう。

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息子が通うサッカースクールで指導者の変更があって、突然ヘディングの練習をはじめました。

3メートルぐらいの距離から投げて、ヘディングで返す。

 

チームとして普段からヘディング練習をしているわけではないので、ほとんど全ての子が初体験と見られるほどに下手くそでしたが……。顔面に当てたり、頭頂部で返してしまい、痛くて蹲ったり。投げるほうも加減が解らないというか、強く投げたら強く跳ね返ってくるだろうと考えたのか、だんだん強いボールを投げるようになってました。

 

ちなみに息子のカテゴリはU8で、この練習ではU5~U8の年代が一緒に練習していました。

毎回練習を見に来るような熱心な親が多く、そこそこであればドリブルが上手い子が沢山いるチームなのに、ヘディングは全くできていないところを見ると、やっぱりヘディングを積極的に教えている親はほとんどいないんじゃないかなあ、と。

 

 

 

 

ヘディングの危険性を証明した研究が増えている

脳振とう発症リスク3倍に

www.afpbb.com

こうした結果について論文主筆者のマイケル・リプトン(Michael Lipton)氏は「ほとんどの脳振とうは衝突に起因すると示唆してきた最近の調査結果とは反対に、ヘディングは実際に脳振とうの症状と関連している」ことを示すと共に「ヘディングの長期的影響への懸念を提起するものだ」とし、さらなる調査が必要だと訴えた。

この記事によると、ヘディングは脳震盪を起こす可能性が十分にあり、その発症リスクは3倍にも膨れ上がるとのこと。

しかし注意点を挙げるならば、これは全くヘディングをしない人間とヘディングをする人間とで比べたものではなく、ヘディングをする回数が少ない人と多い人での差である。

全くしない人と比べれば、言うまでもなくそのリスクは3倍程度では済まないだろうと思う。

プロや社会人、大学生や高校生であればともかく、少なくとも小学校低学年以下の子供が行うサッカーではそもそもボールが高く上がる機会自体が少なく、ヘディングの機会はそうない。

ヘディングする機会よりは故意にシュートが顔面を直撃するような場面のほうが多く見る。それはそれで大変危険ではあるが、それはもう競技・練習中の事故であり、頻度も多くないことから、スポーツをやる限り避けては通れない程度のものだと思うしかない。

それに、そうした事故が何回も連続することはないだろう。

一方でヘディングは練習である以上、何度も繰り返すことになる。

 

イングランド代表で主将まで務めた選手も、不安を告白している

www.newsweekjapan.jp

「サッカー界は、認知症を抱えた高齢の元選手のことも面倒を見なければいけない。現役を引退したらお払い箱だという考え方を終わりにしなければ」とシアラーは訴えている。

シアラーの訴えは、あくまで自身が元プロサッカー選手であったことが前提条件となっている。仮に今ヘディング練習をしている子供がプロになったとしても、引退後の人生のほうが遙かに長いのである。

そして、当然のことだけれども、子供がプロの選手になる確率なんて全く1%にも届かない。こんな事を言いたくはないけれど、現実問題として、プロサッカー選手としての人生という輝かしい期間は、今練習している子供達のほぼ全てにとって存在しないのだ。

趣味としてサッカーを続けることは最高に素晴らしいことだと思うし、私も息子にはサッカーに限らずスポーツを楽しみながら人生を過ごしてほしいと願っているけれど、そのために負うリスクとして若年性認知症や脳震盪の危険性が上がることは余りにも大きすぎはしないだろうか。

子供も親もプロサッカー選手になる事だけが人生の目標だと断言できるなら何も言いはしないけれど、そうでないならば、これは負うべきリスクなのか回避すべきリスクなのか「慎重に検討したほうが良い」としか言いようがない。

また、記事ではヘディングにより死亡した選手の話も書かれている。

付け加えて、別の記事によるとシアラーは

ヘディングと認知症の関連が心配な元英代表FW「記憶力に問題がある。研究を進めるべき」 | フットボールチャンネル

十分に研究が進んでいるところはどこにもない。当局は何か答えが出ることを嫌っている

 とも発言している。

 

脳機能、記憶力に負の影響がある

www.afpbb.com

ヘディングをした直後の選手の記憶力は、41~67%低下したという。その影響は24時間が経過すると徐々に消えた。

この研究はヘディングの短期間における影響を解明するもので、簡単に言ってしまえばヘディング練習をしたあとの記憶力は通常の半分程度に落ち込み、回復には24時間という時間が必要ということ。

そしてもう一つ注目すべきは、

研究チームは機械を使ってコーナーキックに似せたボールを放ち、被験者の選手たちにそれぞれ20回、ヘディングをしてもらった。

20回という回数は物凄く多いというわけではない。

実際、息子のヘディング練習は20回程度続けられた。

コーナーキックに似せたボールということで、それなりの衝撃が加わることは確かだが、この研究の被験者は骨格筋力がしっかりとした大人である。少なくとも第二次成長期を迎える前の少年でもなければ、決して10歳にも満たない子供の話ではない。

技術と体力のある大人の研究で、20回コーナーフラッグから上がったクロスをヘッドすると、記憶力が半分に落ちるのである。骨格も筋力も全く比較にならない子供であればどうなるのか、全く以て想像が及ばない。

 

ボール自体の重さは大人用の5号球と小学生が使う4号球ではたった60gしか変わらず、骨格筋力も一切比べものにならない子供のヘディング練習と、大人のスピードあるボール(もちろん衝撃は強くなる)に合わせる練習が仮に同じ程度の影響を与えたとしても。

たった20回の練習で24時間の記憶力が半分になると考えれば、では、月曜日の夜に練習した場合、火曜日の授業は半分の記憶力で挑まなくてはならなくなってしまう。子供の本分はサッカーではなく学業だ。

こうした影響のあるヘディング練習を定期的に積み重ねればどういう結果が待ち受けているか、こちらは想像することが容易である。

ヘディングを多用する選手とそうでない選手では、多用する選手のほうが9ポイントもIQが低かったという話もあるけれど、毎日のように練習して毎日のように記憶障害が起こっているのならば「そりゃそうなるだろう」としか言いようがない。

 

前述したように、親子共にプロのサッカー選手以外に何も望まないというなら、私は何も言わないけれど。

 

各国で子供のヘディングは禁止の方向へ動きはじめている

アメリカの場合

www.cnn.co.jp

アメリカサッカー協会
  • 10歳以下(U11未満)の子供に対してヘディングを禁止。
  • 11~13歳以下(U14未満)のヘディング練習回数に制限。
The American Youth Soccer Organization
  • 11歳以下(U12未満)の子供に対してヘディングを禁止。
  • U11カテゴリを持たないリーグ・チームに関しては12歳以下(U13未満)で禁止。
  • 14歳以下(U15未満)の選手は、ヘディング練習は1週間のうち30分以内、1度の練習でヘディング回数が15~20を超えないこと。

※The American Youth Soccer Organizationは4歳~19歳まで600,000人を超える選手と50,000を超えるチームを抱えるユース運営団体です。

 

また、アメリカの場合、州によってはヘディングをファール扱いとして、相手フリーキックでゲームを再開するなどのルールを採用している場合もある。

 

イングランドの場合

10歳以下へのヘディング禁止を、プロサッカー選手協会が「真剣に考慮すべき」としている。

イングランドサッカー協会はヘディング禁止に関して、「十分に考慮した上での対応を取るべき」と非常に慎重な態度でいますが、しかし危険性を考慮するべきであることは否定していません。

 

スコットランドの場合

協会の元会長がアメリカの例に倣うことも検討すべきだと指摘。

「幼い子どもたちに後になってどんな影響が出ることもないよう、特定の年齢層にはヘディングをやめさせるべき」

引用元:HEALTH PRESS

 

一度のヘディングは安全でも、積み重ねれば危険

  • ヘディングをすると場所・初速に関係なく脳中心部にいくにつれ強い応力がかかる。
  • 側頭にボールを受けた場合、正面よりも強い応力がかかる。
  • 頭部にかかる加速度は頭蓋骨に近い位置の方が高い。ただし、衝突後は加速変化はすぐに低下する。
  • 脳中心部のHIC(頭部傷害値)は衝突時に加速度が大きく影響を受けない代わりに衝突後も加速度変化が残る。

という研究結果が報告されている。

どちらにしてもHICは脳全体では約70であった。同値は、1000を超えない限りは死亡確率は0であると言われている。

引用元:「ヘディングは本当に悪なのか」専門家に聞いてみた

 

HIC=(脳中心部の)頭部傷害値。

70というのは一度のヘディングであり、つまるところ15回を超えて繰り返すと死亡確率が発生することになる。

試合中であれば、よほど競り合いに強い選手でなければ15回も空中戦で勝つのは難しいだろう。子供であれば、先述したようにそもそも空中戦の機会が極端に少ない。大会で複数試合をこなしたとしても15回ヘディングするのは少し無理があるだろう。

しかし練習は別である。

練習となれば、何度も反復してヘディングすることになる。この研究を踏まえれば、アメリカにおける「1度の練習でヘディング回数が15~20を超えないこと」という制限は非常に理に適っている。

と言っても、12~14歳の話であって、10に満たない子供の話ではないけれども。

 

全部覆してしまうけれど、ヘディング練習は避けられないと思う。

ここまでの話は何だったのかということになってしまいそうだけれど、サッカーにヘディングが存在する限りいつかはヘディング練習をしなければならなくなります。

サッカーを続けるなら、少なくとも現状ではヘディングを避けて通ることはできない。

親がどれだけ反対しようが、子供はヘディング練習をするし、させられます。

 

それでも言いたいのは、それに対して親や指導者はより慎重に判断すべきだと思うし、なにも骨格や筋力が全然未熟な段階から400g近い4号球で練習しなくても良いんじゃないの? ということ。

チームでヘディング練習があるなら、

  • チーム自体をやめさせるか
  • 堂々と反対して練習内容を変えてしまうか
  • 少なくとも頭頂部や後頭部でヘディングしないようにできる限り安全な技術を子供に教えるか
  • サッカーをやめさせるか

選択肢はこれぐらいしかありません。

しかし一つ目の選択肢はいずれヘディング練習をするという事実からは逃げられないですし、二つ目も現実的ではない上に練習はともかく試合や子供が遊びの中でする分にはどうなの? という話になってしまいます。

サッカーをやめさせる……。そういう選択肢もありだと思います。もっと安全な(少なくともサッカーよりは安全な)スポーツはいくらでもありますから。というか自主的に頭を対象に叩き付けるスポーツって普及している中ではサッカーだけです。

しかし子供がサッカーを続けたいという意思を持っていて、親もそれに協力するのであれば、三つ目の「安全な技術を教える」しかないでしょう。

 

 

ヘディング練習はゴムボール、慣れたら軽量球でやろう。

空中戦での競り合い、身体の使い方、そういうものに慣れていかないと、何の練習もしていないところにいきなりフィジカルコンタクトがあっては非常に危険です。

だからヘディングを全て禁止すればいい、という話でもないと思います。

試合中のヘディングをファール扱いにするというルールはU10以下とかであれば非常にユニークで素晴らしいと思いますが。

 

骨格や筋力に合わせたヘディング練習をしていくことが大事なことなのでは、と。

最初はゴムボールで十分だと思います。目を開いて、ゴムボールをおでこの上に当てる練習。

いきなり400gのパンパンに空気入れたボールへ頭をぶつけるよりは、絶対に衝撃は少ないです。

更に初期、幼稚園生程度であれば、ゴム風船という手もあります。

まずは慣れることから。

そして3号球、4号球には軽量球というものがあります。

軽量球は重さが通常の半分程度です。脳、頭蓋、それを支える首への影響を減らしつつ、ゴムボールからステップアップするには最適でしょう。 

お奨めは3号の軽量球です。ヘディングの練習をするに当たって、ボールは小さい方が当てづらいので難しいです。しかし4号軽量球よりも更に30gほど軽いので、脳への衝撃は更に減少させることができます。

 

脳は非常に大切なものです。腰や膝を壊すことと脳を壊すことは、全く次元が違う問題です。

子供の人生に悪影響を及ぼさないように、親や指導者はできるだけ安全で効果的な練習を、と願います。

 

中田英寿はヘディング練習を避けていた

ちなみにサッカー界のレジェンドである中田英寿選手は、ヘディングが脳に与える影響を危惧してヘディング練習をできるだけ避けていたそうです。それでもヘディングは全然下手じゃなかったどころか上手い印象しかありませんが……。ワールドカップでもヘディングゴール決めてましたしね。

世界を相手に戦い、引退後は実業家として活躍するほど頭の良い人の取った行動なので、参考にする価値は十分にあると思います。